脳腫瘍について
脳腫瘍は、まず大きく、原発性脳腫瘍(約8割)と転移性脳腫瘍(約2割)に分類されます。原発性脳腫瘍は、その発生頻度順に、髄膜腫(実質外腫瘍:約27%)、神経膠腫(実質内腫瘍:約27%)、下垂体腺腫(約18%)、神経鞘腫(約10%)、頭蓋咽頭腫(約3.5%)などが挙げられ、これら5つの腫瘍が、原発性脳腫瘍の86%を占めます。転移性脳腫瘍は、体に発生したがんが脳に転移した腫瘍です。
年齢によっても発生頻度は大きく異なり、小児期には神経膠腫(しんけいこうしゅ)の割合が増え、高齢者では髄膜腫の割合が増えます。
髄膜腫(ずいまくしゅ)
髄膜腫は、脳そのものではなく、脳の外側を覆っている硬膜という膜から発生する腫瘍です。ほとんどは良性(腫瘍が成長する速さが遅く、転移しない)ですが、非常にまれながら急速に増大する悪性の髄膜腫も存在します。髄膜腫によって脳が圧迫され、すでに症状が出ている場合には、外科的に脳腫瘍摘出術を勧めることが多いです。逆に、症状がなく腫瘍が小さい場合には、大きくならないかどうかを見るために画像による経過観察をお勧めし、成長速度が速い場合には、手術をお勧めすることがあります。
神経膠腫(しんけいこうしゅ:グリオーマ)
神経膠細胞(グリア)と呼ばれる細胞から発生する腫瘍を「神経膠腫」と呼びます。脳腫瘍の発生場所によって、さまざまな症状が現れる可能性があります。一般的には、頭痛・片まひ・失語・けいれん発作・意識障害などの症状で発見されることが多いですが、脳の重要な機能がある場所ではなく悪性度が低い(進行スピードの遅い)タイプの脳腫瘍では、かなり大きくなるまでほとんど症状が現れないこともあります。
神経膠腫の治療は、可能な限り手術で腫瘍を摘出し、摘出した腫瘍を、病理学的分類に基づいて病理医が診断することがとても重要です。神経膠腫の病理学的分類は、悪性度(細胞の増殖能・進行のしやすさ)によって、グレード1~4に分類されますが、脳の中にびまん性に広がって浸潤するタイプの神経膠腫は、グレード2以上となります。
びまん性に浸潤する神経膠腫は、MRIなどの画像上では全摘出できていても、腫瘍細胞を残らず全て取り除くことは難しいので、病理診断の結果に基づいて、放射線治療および
化学療法(抗腫瘍薬)
などを行って、残っている腫瘍細胞を死滅させたり、増殖を抑える治療が行われます。
脳腫瘍の発生部位によっては、手術することが難しい、つまり「手術で腫瘍を摘出すると意識障害や半身の手足が動かなくなるまひなどを生じる可能性が高い」ため、摘出術を選択しないことがあります。そのような場合は、病理診断を目的とした生検術(バイオプシー)のみを行い、放射線治療と化学療法を中心に治療を行うこともあります。
神経膠腫の治療方針と生命予後は、病理学的分類のグレードによって大きく異なりますので、グレード別に一般的な治療方針についてご紹介します。
グレード2(星細胞腫・乏突起膠腫・上衣種など)
基本的な治療は、手術(開頭脳腫瘍摘出術)と術後の放射線治療です。比較的予後が良好と言われています。
神経膠腫は腫瘍細胞の特徴によって、星細胞腫系、乏突起膠腫系、星細胞腫と乏突起膠腫の混合型に大きく分類されます。乏突起膠腫系は、星細胞腫系と比べてややおとなしい腫瘍で、化学療法が効きやすいと言われており、手術後に放射線治療に加えて、化学療法を行う場合があります。
グレード3(退形成性星細胞腫・退形成性乏突起膠腫など)
グレード3は、病理診断的にグレード2と4の間ということであり、治療効果と生命予後も2と4の間ぐらいと報告されています。基本的な治療は、グレード4の膠芽腫と同じです。
グレード4(膠芽腫)
基本的な治療は、手術と術後の放射線治療と化学療法です。治療の難しい病気の一つで、個人差が大きく、手術が難しい場合もあります。化学療法としてテモゾロマイド(テモゾロミド、商品名:テモダール)が著効するタイプもあり、放射線治療を併用することで腫瘍が縮小することが、ある程度期待できます。
聴神経腫瘍(ちょうしんけいしゅよう)
聴神経の周囲に巻き付く鞘(ミエリン)を構成するシュワン細胞から発生する腫瘍で、ほとんどは良性腫瘍です。症状としては、耳が聞こえにくい、耳鳴り、めまいなどがあり、時間の経過とともに腫瘍が大きくなると、顔面のまひ(顔がしびれたり曲がる)や、物が二重に見えたりすることがあります。さらに症状が進行すると、真っすぐに歩こうと思っても歩けなかったり、食べ物をうまく飲み込めなかったり、激しい頭痛が起こったり、意識が悪くなったりしていくことがあります。この腫瘍は、腫瘍内に液体を産生して袋状の「のう胞」を形成することが多く、のう胞が大きくなることで急速に症状が悪化することがあります。
腫瘍の直径が3cm未満の場合には、
- 経過観察(様子をみる)
- ガンマナイフなど定位的放射線治療
- 外科的腫瘍摘出術
の3つの選択肢があります。
腫瘍の直径が3cm以上あり、脳幹を圧迫している場合には、定位的放射線治療よりも外科的腫瘍摘出術が推奨されます。
聴神経腫瘍では、脳室が拡大して、歩行障害、認知機能障害、尿失禁、さらに進行すると食欲低下や意識障害などを来す水頭症を合併することがあります。そのような場合には、水頭症に対する脳室-腹腔シャント術などの治療が必要となります。
下垂体腺腫(かすいたいせんしゅ)
下垂体はホルモン産生の中枢であり、脳の正中からぶら下がったような形状をしています。下垂体腺腫は、下垂体の前葉から発生する良性腫瘍がほとんどであり、ホルモンを過剰に分泌する「ホルモン産生性下垂体腺腫」と、ホルモンを分泌しない 「非機能性下垂体腺腫」に大きく分類されます。
非機能性下垂体腺腫は、視神経圧迫による視力視野障害やけんたい感など、下垂体機能低下に伴う症状で発見されることがあります。ホルモン産生性下垂体腺腫としては、乳汁分泌ホルモン(プロラクリン)過剰分泌型が最も多く、月経不順・無月経や乳汁分泌などの症状で発見されます。
成長ホルモン過剰分泌型は、幼少期に発症すると、身長や手足が異常に伸びて、いわゆる巨人症になります。成人になってから発症すると、手足の先端や額、下顎、鼻、唇、舌などが肥大する先端巨大症になります。放置すると、糖尿病、高血圧、心不全など、生命に関わる病気を併発することが知られていますので、早期診断と治療が必要です。
副腎皮質刺激ホルモン産生腺腫は、クッシング病と呼ばれ、顔が満月のように丸くなり、手足と比べて胸や腹部が太る、いわゆる中心性肥満という体型や、にきびができやすく、体毛が濃くなるなど、容姿で病気が発見されることがあります。
まれに、下垂体腺腫内に出血や梗塞(下垂体卒中)を来して、突然の頭痛、視力視野障害や眼球運動障害などの症状で発見されることがあります。
治療法は、ホルモン産生の有無や症状などによって異なります。