本来、肝臓はある程度の障害を受けても、ゴムボールのような代償作用が働いて元に戻る能力があります。ですが、限度を超えると回復できず、いわゆる肝不全という状態になってしまいます。また、肝臓には余力があるため、少々の障害では症状が現れません。これが「沈黙の臓器」と呼ばれるゆえんです。
病状が進行していても自覚症状がありませんので、手遅れになることが多いので注意が必要です。
肝臓がんの検査・治療
沈黙の臓器と呼ばれる肝臓。体がだるい…と気付く頃、その肝臓の病気はかなり重症になっています。
人類は、さまざまな化学変化を起こす肝臓と同じレベルにある実際の化学工場を作る技術がまだないといわれています。肝臓は、それほど複雑な働きをする臓器です。
肝臓は化学処理工場
肝臓は体の中で最も大きな臓器で、腸で吸収された栄養をたっぷり含んだ血液が流れ込みます。栄養は肝臓に蓄えられ、グリコーゲンやタンパク質など、利用されやすい形になって血液中に送り出されます。また肝臓には有害物質(アルコール、薬、アンモニアなど)を分解する解毒作用や脂肪の消化を助ける胆汁を作る役割があります。まさに科学処理工場のような臓器、それが肝臓です。
再生するただ一つの臓器
肝臓の役割
- 体に必要なタンパク質の合成・栄養の貯蔵
- 有害物質の解毒分解
- 脂肪の消化に必要な胆汁の合成・分泌
慢性肝炎、肝硬変に定期検査が必要な理由
年間約3万人が肝臓がんのため亡くなっています(※)。その約90%は、肝臓に2,500億個ある「肝細胞」にできるがんが原因です。C型肝炎ウイルスの感染による慢性肝炎から、20年経過すると30~40%が、肝硬変となり、1年に8%の方が肝臓がんになります。
C型肝炎は、治療によって治る人が増えていますが、感染していない人よりは肝臓がん発症のリスクが高く、定期検査が必要です。
定期検査では超音波、CT、MRIなどの画像検査や腫瘍マーカーなどの血液検査を行います。
がんが疑われる組織を採取し検査(生検)をするためには、肝臓は他の臓器とは違い直接組織をとることができず、体外からおなかを通して肝臓を針で刺す必要があり、がん細胞がおなかの中に広がったり、出血するリスクがあり、ルーチンでは行っていません。
- ※厚生労働省『人口動態統計』による
隠れた場所にも届く「腹腔鏡手術」
肝臓がんの治療法は手術、焼灼療法、血管塞栓術、薬物療法などがあり、症状により患者さんと相談して選択します。
腹腔とは腹壁と内臓の間にある空間のことです。腹腔鏡手術では、おなかの皮膚を大きく切り開かずに4~5カ所の小さな穴(直径5mm~10mm)とカメラ用の直径50mmの穴を開けて、炭酸ガスでおなかを膨らまし、先端に鉗子、メス、カメラなどがついた細い器械を腹腔に挿入し、それらを操作しながら、腫瘍を取り除きます。この手術は傷が小さく、患者さんの体に負担が少ないだけでなく、腹腔の奥までカメラを入れることができるので、さまざまな角度から状態を確認したり、切除したりすることが可能となるメリットがあります。しかし、腫瘍が門脈や肝静脈といった太い血管の根元近くにある場合などは、腹腔鏡では対応が難しく、病状に応じて腹部の皮膚を切開する開腹手術を行います。