三叉神経痛(さんさしんけいつう)の治療

一般的な説明ですので、実際の治療については主治医にお尋ねください。

三叉神経痛とは

顔面の痛みには「ずきずき痛い」「ひりひり痛い」など、さまざまなものがあります。三叉神経痛には、唇の周囲や歯の周りなどの片側で、会話や食事などの外的刺激によって突然ビリッと電気が走るような強い痛みがあり、テグレトールという薬が有効である(あった)という特徴があります。
三叉神経痛の原因にはさまざまなものがありますが、最も多いのは、三叉神経が脳に入る直前で、血管の圧迫により変形やねじれが生じていることです。ほとんどの場合、動脈の圧迫が関与していますが、まれに神経周囲の癒着などによっても起こります。

診断法

三叉神経痛は上記のような特徴があり、また、頬の一部や口唇の一部に触れると同じ痛みが誘発されることもあります。さらに、痛みが強くなると、外的刺激がなくても持続的に痛む場合もあります。テグレトールは有効な薬ですが、服用し始めにはふらつきや眠気が生じるために、治療に必要な充分量を服用できない場合もあります。診断を確実にするためには、充分量を服用してみることも大切です。
検査法としては、MRI画像検査があります。この検査は、薄い断層画像として、脳に入る直前の三叉神経と圧迫血管の状態を直接観察することが可能です。多くの例で、手術の前に原因血管を推定することが可能ですが、反対側にも似たような所見があったり、圧迫血管がみられない場合もありますので、上に述べた症状の有無が、診断には最も大切であると考えています。

頸椎のしくみ

【 細い青矢印 】:圧迫血管

【 太い白矢印 】:三叉神経根

主な治療法

薬物療法(テグレトール)

テグレトールは最も有効な薬剤で、これによる薬物療法は最初に用いる治療法です。しかし、継続して薬を使用していると次第に効果が減少してきて、服用する薬の量が増え、ふらつきや眠気が強くなって日常生活に支障が出たり、血小板減少などの副作用で継続できないことがあります。この場合には、次の治療法を考慮することになります。

神経ブロック

神経ブロックは、外来でも治療を行える点では優れていますが、ブロックする神経の領域に高い頻度でしびれを伴うことが欠点です。また、しびれが残ったまま痛みが再発する場合もあります。

ガンマナイフ

ガンマナイフは、最近使用されるようになったもので、高線量の放射線を三叉神経に照射して痛みを取る治療法です。線量が多すぎるとしびれを伴いやすく、少ないと治癒率が低くなるという傾向があり、長期追跡のデータはまだ充分ではありません。当科では、全身麻酔が困難な場合や、重度の全身合併症がある場合に適応されると考えています。

手術

手術は、痛みの原因となる血管の圧迫を解除して原因を取り除くという、ほかの治療法にはない利点があります。治癒率も高く、多くの場合、薬物の継続服用は必要なくなります。
外科的治療として当科で行っているのは、神経血管減圧術という手術法です。これは、耳の少し後ろの骨に、500円玉1個半くらいの穴を開けて、そこから手術用顕微鏡を用いて三叉神経の脳からの出口部を観察し、原因となっている圧迫血管を見つけて、神経に当たらないように移動させるというものです。手術は全身麻酔で5~6時間程度です。手術後1週間で抜糸、入院期間は2週間程度です。個人差はありますが、退院後は、早期から通常の生活に戻っていただけます。当科では、毎年約30例の手術をしています。

治療効果

三叉神経痛の痛みは、多くの場合、術後早期に消失します。1割程度の確率で痛みが残存する場合がありますが、次第に痛みが減弱していくことが多いので、1週間程度経過をみることにしています。痛みが全く改善されない場合、初回の手術で見えにくかった場所に原因が隠れている場合がありますので、再度手術を行うことがあります。再手術で効果が得られる例が多くあります。
長期間経過観察を行うと、5%程度に症状の再発がみられます。このような場合にも、前述のようないくつかの治療があります。再発のほとんどの例は、癒着によって神経が変形したり、ねじれたりしており、再手術で癒着を剥離して神経を真っすぐにすることによって、多くの場合、症状が改善します。

合併症

手術後の合併症としては、顔面神経まひ、聴力低下、髄液漏、髄膜炎、創部感染、脳内血腫などがあります。これらが起こる頻度は、数%です。軽度の症状としては、ふらつき感、頭痛、創部痛、耳閉感などがあります。
脳深部の手術であり、意識障害や小脳症状あるいは運動まひといった重篤な症状が現れる可能性も否定できません。

最後に

手術は絶対に安全と言い切れるものではありませんが、合併症が起こる頻度はそれほど高いものではありません。神経血管減圧術は、三叉神経痛の原因を取り除くことが可能な治療法であり、脳神経外科領域での確立された治療法です。三叉神経痛でお悩みの方は、一度ご相談ください。