早期発見で消化管のがんは怖くない

消化管の働きとがんの発生

消化管は、食道、胃、十二指腸、小腸(空腸・回腸)、大腸(結腸・直腸)と1本につながる管です。
この消化管を食物が通過するうちに栄養や水分を吸収します。私たちが生きていくためになくてはならない最も大切な臓器です。

消化管は、食事などに含まれるさまざまな物質に、日々さらされています。すなわち、外来の刺激物に最もさらされる臓器といえます。どの臓器のがんも、長年の炎症の結果として発症することが知られています。厚生労働省の死亡統計をみると、胃がんと大腸がんが、第2位と第3位を占めています。外来物質の刺激に長時間さらされている胃・大腸にがんの発症が多いのは、理解しやすいと思います。

死亡統計の上位を占めるがんは、一見、怖いがんだと思われがちですが、それは発見が遅れて根治できなかったがんであり、早期に発見すれば決して怖いがんではありません。実は、死亡統計に集計されない胃がん・大腸がん、すなわち完治することができたがんが、大半を占めているからです。
胃がん、大腸がんは、早期発見すれば治癒させることができるがんですので、怖がることはありません。

死因別統計から見る消化器がん早期発見の重要性

わが国の死因別統計を見ると昭和50年代に悪性新生物(がん)の死亡率が1位になりましたが、その後も増加の一途をたどっています。がん死亡の約半数を占めているのは当科が担当している「消化器がん」です。胃がんと大腸がんが多く、両者を合わせると消化器がんの約半数に達しています。胃がん・大腸がんは、定期的な内視鏡検査で早期発見が比較的容易にできます。実際に早期発見され内視鏡的切除(EMR/ESD)によって根治できる胃がん、大腸がんは6割以上に達しています。

したがって、死亡統計に計上されない早期がんが過半数を占めていることになります。内視鏡検査・治療は苦痛というイメージがありますが、当院では患者さんの状況に合わせて苦痛の少ない検査体制を構築しています。

内視鏡検査による早期発見

消化管がんの特徴は、粘膜から発生することです。消化管の構造は、管腔側(食物の通過する側)から、粘膜、粘膜下層、筋層、漿膜(しょうまく)下層、漿膜という順に並んでいます。

消化管の構造

がんは、粘膜内に止まっているうちは、リンパ節や他臓器に転移することはありません。がんが粘膜筋板という薄い膜を破って粘膜下層に侵入すると、リンパ節転移のリスクが生じます。さらに筋層や漿膜に進むに従い、転移や播種(はしゅ:種をまいたようにバラバラ広がること)のリスクが高まります。

早期にがんを発見すると、転移のない状態(がんが散らばっていない状態)で治療が可能になります。先述のとおり、がんは粘膜から発生するため、粘膜側から観察することができる内視鏡検査は早期発見に適した検査法です。

内視鏡によるがんの治療

内視鏡治療の進歩・発展により、内視鏡による早期がんの一括完全切除が可能になりました。
粘膜内に止まるがんは転移がありませんので、局所病変(病気によって変化した部分)を完全切除すると、外科的手術に匹敵する根治性が得られます。

内視鏡的切除には、内視鏡的粘膜切除術内視鏡的粘膜下層剥離術の2通りがあります。
前者は小さながん、後者は中等度以上の大きさのがんに適応されます。どちらも電気メスを用いてがん部を切除します。電気メスというと「痛そう」と思われる方もおられるでしょうが、幸い、消化管の粘膜には皮膚にあるような痛みを感じる知覚神経はありませんので、電気メスで粘膜を切開しても痛みを覚えることはありません。内視鏡治療では、おなかに傷をつけることなく、また、消化管の機能を損なうことなく、治療できるメリットがあります。

私たち消化器医は早期発見を心掛け、患者さんに喜んでいただけるような、より体への負担が少ない治療を提供できるように研鑽(けんさん)を積んでいます。

5年生存率

がん診療では「5年生存率」という言葉がよく使用されます。5年生存率は、がんの治療開始から5年後に生存している人の割合を示しており、治療成績を評価するための大切な指標です。胃がんと大腸がんの5年生存率を見てみることにしましょう。

大腸がんの進展とステージ分類 胃がん・大腸がんの5年生存率

がんは、進行度によって予後(治療後の経過)が大きく変わります。がんの進行度は「ステージ」という言葉で表現されます。ステージが進むにつれ、5年生存率は低下します。早期発見・早期治療の重要性がおわかりいただけると思います。これらの生存率は、主に外科治療のデータに基づいたものであり、内視鏡的切除症例はほとんど含まれていないことを考え合わせると、ステージ0と分類される粘膜内がんでは、がんによる死亡はほぼ0%です。

当院で行う精密検査について

膵がんは早期発見が課題となっているがん腫です。腫瘍マーカー、腹部超音波検査、MRIが膵がんの発見に有効とされています。
これらの症例に対して当院では積極的にEUS(超音波内視鏡検査:先端に小型超音波を装着した内視鏡)ならびにEUS -FNA(超音波内視鏡下穿刺吸引細胞診)による精密検査を行っており、手術可能な小膵がんの確定診断に努めています。早期発見が課題の膵がんにおいてはいかにして精密検査までもっていくかが重要です。

苦痛の少ない内視鏡検査

「がんの早期発見の重要性は十分に理解できても、内視鏡検査は苦しい・痛い」と思っておられる方は多いと思います。実際に苦しかった内視鏡検査をこれまでに経験された方もいらっしゃると思います。

当院では、患者さんの要望に応えて、安心して内視鏡検査を受けていただけるシステムを構築し、苦痛の少ない内視鏡検査を実践しています。これまで苦しい検査を体験された方は、その旨を担当医や看護師に言っていただければ、苦痛の少ない検査をお受けいただけます。少しの勇気をもって内視鏡検査を受けていただくことができれば、消化管がんは決して怖いがんではありません。かかりつけ医にご相談のうえ、内視鏡検査をご予約ください。