肛門科
概要
当院肛門科は、一般的に診断・治療の困難な、深部痔瘻(坐骨直腸窩痔瘻、骨盤直腸窩痔瘻)、再発痔瘻、複雑痔瘻(多発痔瘻など)の手術を専門にしております。
とくに深部痔瘻の手術では、多数の手術件数、高い手術成績を誇っています。
2002(平成14)年の開設以来、現在まで約10,000例の手術を実施しており、現在はひと月に約50~60例のペースとなっています。
現在、診察まで約1カ月待ち、初診から入院、手術まで約2カ月待ちの状態ですので脱肛(いぼ痔)、痔出血、裂肛など、一般的な肛門疾患の患者さんはなるべく他の医療機関をご利用ください。
当院は、日本大腸肛門病学会肛門領域指導医が在籍する総合病院ですので、合併症(糖尿病、心臓疾患など)のある肛門疾患の患者さんも、負担の少ない手術が可能です。
手術の麻酔は、麻酔指導医の資格を有する専門の麻酔医が担当します。
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当院は日本大腸肛門病学会の専門医修練施設です。
- 大腸・肛門の専門医を育てる病院。専門医になるためには、修練施設で5年以上の経験を必要とします
対応疾患
痔核、痔瘻(じろう)などが手術対象疾患です。手術の際は患者さんに詳しく病状を説明し、保存的治療を含め、患者さんのご希望に沿った治療を行います。
スワイプ
病名 | 術式 | 入院期間 |
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1.痔核 | つりあげテクニック、炭酸ガス凍結療法 | 2泊3日~3泊4日 |
2.痔瘻 | 再発のないミニマルシートン術式 | 1泊2日~3泊4日 |
3.深部痔瘻 | MRI検査 | 3泊4日~5泊6日 (MRI検査を含める) |
- 術前から重症の感染症を合併した深部痔瘻は、術後に当院感染症科で全身の管理をいたします。
- 10日以上の入院が必要となる場合もございます。
いずれの疾患も他府県の方には、延長期間の入院をおすすめしております。
局所麻酔で実施可能な、内痔核のゴム輪結紮(けっさつ)・外痔核・皮垂(ひすい)などの手術、単純な痔瘻の手術は入院の必要はなく、日帰り手術で行います。
1.痔核の治療
「痔核」は「イボ痔」ともいわれ、肛門を閉じるクッション部分がうっ血して腫れあがり、排便時に出血するものです。放置すると痔核が肛門の外に脱出する「脱肛」を引き起こします。「痔核」には歯状線より内にできる「内痔核」と外にできる「外痔核」に分類されます。さらに内痔核は、脱出の程度によりⅠ度〜Ⅳ度に分類されます。軽度の痔核は、まず保存的に(軟膏、坐剤、緩下剤、鎮痛剤、生活・排便習慣の改善などで)治療します。
当科では、痔核・脱肛の手術として、半閉鎖法(痔核を切り取った傷口を縫う手術方法)に併せ、歯状線部の皮膚を内肛門括約筋までつり上げる「つり上げテクニック」を用います。術後の腫れ・痛みがほとんどなく、手術の翌日には手術創が完全に消失し、脱肛の症状も完全になくなります。
また、痔核手術に炭酸ガス凍結療法(内痔核部の粘膜と静脈瘤のみ壊死(えし)させ、括約筋には影響を与えない治療)を併用し、肛門機能に優しい手術を心掛けています。いずれも入院期間は短く、ほとんどの患者さんが手術翌日に退院されます。当院の薬剤部開発の特殊な薬剤の使用により、術後の痛みを和らげています。万が一、術後出血が起きた場合でも、当院は24時間救急体制ですので、責任をもって対処することができます。
また、当科では、痔核・脱肛で出血のある患者さんに、当院の消化器内科で先に大腸内視鏡検査を行い、大腸がん・直腸がんの可能性を否定してから手術するよう、お勧めしております。
脱肛や直腸脱の診断には、安静時だけでなく「怒責診(トイレで力んだ状態での診察)」が重要です。力んだときだけ脱肛が起きる方は、そのときの肛門の写真をスマートフォンなどで撮影して、持ってきていただけると助かります。
2.痔瘻の治療
痔瘻(じろう)は直腸と肛門の境目のくぼみから細菌が感染して化膿し、膿(うみ)の管ができた状態です。肛門機能を障害し、長期間放置すると発がんの可能性もある怖い疾患です。
手術では、肛門括約筋を扱うので、術者のレベルによっては、術後に肛門括約筋の障害(おしりが閉まらなくなるなど)を生じる可能性があります。複雑な痔瘻は肛門科として熟達した専門医(日本大腸肛門病学会で肛門領域[Ⅱb]専門医または指導医として認定された医師)に相談することをお勧めします。遠方の方には、ご自宅近くの信頼できる専門医の紹介もしております。
当科では、Ⅱ型痔瘻(痔瘻で最も多いタイプ)の手術法は、ミニマルシートン法を使用しております。これは、どんな複雑な痔瘻でも、瘻管の内腔から原発口を確実に確認し、最小の距離、最小の組織をシートン法(ゴム紐による痔瘻結紮(けっさつ)法)で切断する方法で、当科 部長の加川が考案したものです。入院期間は極めて短く(1泊2日)、6週間で完全に治癒します。傷跡はほとんど目立たず、肛門の変形もありません。
一般的に、Ⅱ型の痔瘻手術の再発率は、肛門専門病院で手術しても20~25%といわれています。(第59回日本大腸肛門病学会総会、2004年)しかし、このミニマルシートン法で手術した患者さん(1,000人以上)の再発はほとんどありません。
複雑な坐骨直腸窩痔瘻(Ⅲ型)、骨盤直腸窩痔瘻(Ⅳ型)は、肛門の解剖に熟知していない外科医が手を出してはならない領域です。加川は、当院PET-CT画像診断センター部長の友井医師とともに、MRI assist seton術式をさらに発展させたMRI navigating seton手術を開発、現在、シートン法を応用した、侵襲の極めて小さい手術を行っています。(学術活動のページもご参照ください)
これは、手術前日に、手術時と同じ体位でMRI検査を行い、膿瘍の部位、大きさ、瘻管の走行などを3D解析します。ピンポイントで原発巣に到達できるため、手術は至って単純、確実なものになります。創は直径25ミリで1カ所のみ。坐骨直腸窩痔瘻と骨盤直腸窩痔瘻の入院期間は全国最短で、MRI検査を含め、2泊3日です。
- 加川の痔瘻のMRI解析の論文「MRIで解析した坐骨・骨盤直腸窩痔瘻の進展のルール」が、平成20年度 日本大腸肛門病学会学会賞を授与されました。
医療設備
電子肛門鏡で患者さんにご自身の実際の状態をご確認いただけます。