肺がん

日本人の1年間のがん死亡者数は約368,000人ですが、肺がんの年間死亡者数は男性が約52,500人でがん死亡の第1位であり、女性は20,900人で大腸がんに次いで第2位です。(2014年時点) 高齢化に伴い、今後肺がんは増加すると考えられています。

2014年の死亡数が多い部位
1位 2位 3位 4位 5位
男性 大腸 肝臓 膵臓
女性 大腸 膵臓 乳房
男女計 大腸 膵臓 肝臓
2011年の罹患数(全国推計値)が多い部位
1位 2位 3位 4位 5位
男性 前立腺 大腸 肝臓
女性 乳房 大腸 子宮
男女計 大腸 前立腺 乳房

京都府の調査(2012年)では、肺がんの発見経緯は、健診が14.8%、ほかの疾患の経過観察で判明するのが42.5%、自覚症状が42.7%です。発見できた時点ですでに肺がんが進行しているケースも多いため、対策が急がれます。

肺がんの検査

健診から確定検査、治療方針を決めるための検査は以下のとおりです。

健診

  • X線検査
  • 喀痰検査
  • 胸部CT検査

異常を見つけるための検査です。簡単にできますが、異常があっても見つけられないことも多いです。

確定

  • 気管支鏡検査
  • 経皮肺生検
  • 胸水検査

確定診断をするために、がん細胞の存在を確認する検査です。検査結果は1週間ほどでわかります。

治療

  • 胸部・腹部CT
  • 頭部MRI
  • 骨シンチ・PET-CT
  • 遺伝子・血液検査

病期を確定し、治療方針を決定するための検査です。また、治療の効果の確認をしたり、分子標的薬(がん細胞の増殖に関わる特定の分子を狙い撃ちしてがんの増殖を抑える薬)の適応があるかを調べます。

肺がんの治療

肺がんの治療方法は、がんの状態や体の状態によって選択します。がんの状態は、がんの組織型や病期、遺伝子変異でわかります。体の状態は、年齢や全身状態、心臓や肺・肝臓・腎臓の機能、ほかの病気(合併症)などで判断します。治療には、局所療法(手術や放射線治療)と全身療法(薬物療法)があります。

日本人の肺がんに多い非小細胞肺がんの場合、がんが一部に限局しているⅠ期~ⅢA期では 呼吸器外科 に紹介し、手術または、手術+術後補助化学療法を行います。周囲の臓器に浸潤しているⅢA・ⅢB期は、放射線療法+化学療法、Ⅳ期は化学療法が選択されるケースが多いです。
患者さんの診断治療方針は、呼吸器内科・呼吸器外科・ PET-CT画像診断センター 放射線治療科 との合同カンファレンスにて決め、各診療科と協力して治療を行っています。

肺がんの薬物療法
(抗がん剤・分子標的薬・免疫チェックポイント阻害薬)

肺がんの化学療法は進化していますが、現状では完全にがんを治すのは難しく、がんの進行を遅らせたり、がんによる症状を抑えたりすることを目的としています。近年は、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などの開発が盛んで、次々に新薬が登場しています。

分子標的薬とは、がん細胞の増殖に関わる特定の分子(たんぱく、遺伝子)を狙い撃ちしてがんの増殖を抑える薬で、正常細胞は傷つけないという利点があります。半面、特定の分子をもたないがんには、ほとんど効果がありません。

免疫チェックポイント阻害薬とは、がんにより抑制されていた免疫細胞を活性化させることにより、肺がんを治療する薬剤です。これまでの抗がん剤とは異なる働きをするため長期間に及ぶ治療効果も期待できる反面、免疫に関連した副作用の出現などに注意が必要です。
当院では年間300~400件程度の抗がん剤治療を行っており、約半数を外来にて投与しております。

スワイプ

肺がんに対する分子標的薬(2016年2月時点)
一般名/商品名 標的分子 適応がん種 米国承認 日本承認
ゲフィチニブ/
イレッサ
EGFR 非小細胞肺がん(EGFR+) 2003年 2002年
べバシズマブ/
アバスチン
VEGF 大腸がん、非小細胞肺がん、乳がん、クリオブラストーマ、腎細胞がん、卵巣がん、悪性神経膠腫、子宮頸がん 2004年 2007年
エルロチニブ/
タルセバ
EGFR 非小細胞肺がん(EGFR+)、膵がん 2004年 2007年
デノスマブ/
ランマーク
RANKL 多発性骨髄腫および固形がんによる骨病変、骨関連事象予防、骨巨細胞腫 2010年 2012年
クリゾチニブ/
ザーコリ
ALK 非小細胞肺がん(ALK+) 2011年 2012年
アファチニブ/
ジオトリフ
EGFR/Her2 非小細胞肺がん(EGFR+) 2013年 2014年
ラムシルマブ/
サイラムザ
VEGFR2 胃腺がん、非小細胞肺がん、大腸がん 2014年 2015年
セリチニブ/
ジカディア
ALK 非小細胞肺がん(ALK+) 2014年 2016年
二ボルマブ/
オプジーボ
PD-1 メラノーマ、非小細胞肺がん、腎がん 2014年 2014年
アレクチニブ/
アレセンサ
ALK 非小細胞肺がん(ALK+) Phase Ⅲ 2014年
ペンブロリズマブ
/Keytruda
PD-1 メラノーマ 2014年 Phase Ⅱ
ニンテダニブ/
Vargatef
Multi 非小細胞肺がん 2014年欧州 2015年
オシメルチニブ/
タグリッソ
EGFR 非小細胞肺がん(EGFR/T790M) 2015年 2016年
ネシツムマブ/
Portrazza
EGFR 非小細胞肺がん 2015年 Phase Ⅲ

特殊な放射線治療(定位照射)や未承認の新薬など、大学病院を含め、他院とも連携して治療を行っています。
最新の治療方法を提供する手段として、治験薬の導入や各種臨床試験への参加も積極的に行っています。

抗がん剤の副作用

以下のような副作用が出ることがあります。

  • 抗がん剤の副作用:
    アレルギー症状、吐き気、下痢、便秘、脱毛、口内炎、倦怠感(けんたいかん)、末梢神経障害など
  • 分子標的薬の副作用:
    間質性肺炎、皮疹(ひしん)、下痢、高血圧、喀血(かっけつ)・血尿、たんぱく尿など
  • 免疫チェックポイント阻害薬の副作用:
    下痢・腸炎、甲状腺機能障害、糖尿病、間質性肺炎、内分泌異常、倦怠感、肝障害など

新規の薬剤の増加に伴い副作用も多様化しており、副作用に対応できるように最新の知見を取り入れ、治療を行っています。

体の痛みや心のつらさを我慢しないで!

当科では、苦痛を和らげてくれる緩和医療も、初期から積極的に行っております。つらい症状があれば、まずは担当医や看護師にご相談ください。

身体の苦痛や心のつらさには、多職種で構成された 緩和ケアチーム とも協力し、治療を行います。
経済的困難に対しては、ソーシャルワーカーや がん相談センター のメンバーが対応します。治療費の大半は公的医療保険が適用となり、自己負担は1~3割です。治療費を軽減するためのさまざまな制度がありますので、相談してください。