対応疾患 口腔癌(舌癌)

1. はじめに

前任地の大阪医科薬科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科にて、口腔癌(舌癌)の臨床と研究を精力的に行い、過去約25年間に555例の診断・治療を行ってきました。口腔癌は、「口」の中にできるがんを指し、口腔癌のうち舌癌が2/3を占めています。その他、歯茎(歯肉癌)、舌の下方(口腔底癌)、頬の粘膜(頬粘膜癌)などがあります。

2. 舌癌の症状

特徴的な症状として、痛みがある(かなり痛いことが多い)、形状が不正形であり時に陥凹したり隆起したりしている、硬いことが多い、などが挙げられます。 治りにくい口内炎だと思って、受診が遅れることがあります。 また頸部のリンパ節に転移して、頸部腫瘤を主訴として受診される方もあります。 口腔癌は幸い鏡を使うと、自分自身でも観察できますので、上記に当てはまる場合はすぐに受診してください。

3. 診断

1. 視診・触診

外来での視診・触診で口腔癌を疑うことができます。疑う場合は病理検査を行います。

2. 病理診断

口腔(舌)の腫瘤のごく一部を切除して、病理組織診断(顕微鏡の検査)に提出します。抗凝固薬等の服薬のない場合は、初診時に行います。約1週間で結果がでます。

3. 画像診断

口腔(舌)局所の検査はMRI、頸部リンパ節転移の検査は造影CT、超音波エコーによって診断します。 頸部リンパ節転移が疑われたときは、同部位から針生検を行うことがあります。

4. 治療

口腔癌(舌癌)に治療の主体は手術切除です。

放射線治療や化学療法(抗がん剤)を用いることもあります。
治療方針は、腫瘍の大きさ(T分類)とリンパ節転移の有無(N分類)によります。
T分類は、腫瘍の大きさ(腫瘍径)と深達度(舌深くに進んでいるか)によって決まります。TやNの数字が小さいほど早期癌といえます。 T1、T2の舌切除では大きな機能損傷(しゃべること、のみこむこと)は頸部です。したがって、早期に癌を発見することが重要です

5. 治療成績

大阪医科薬科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科にて診断・治療を行った口腔癌555例の治療成績を示します。ステージは進行度を表し、数字が大きいほど進行癌です。ステージ別の5年生存率は、ステージIで90%、ステージIIで80%、ステージIIIで60%、ステージIVで50%です。

また、リンパ節転移の有無(N分類)により5年生存率を示します。

N0はリンパ節転移なし、N1は転移が1個、N2は転移が2個以上の症例です。 リンパ節転移の有無が生存率に大きく影響していることがわかります。

6. 術後合併症

口腔癌(舌癌)の術後合併症は、口腔の機能、すなわちしゃべること、のみこむことです。
腫瘍が大きくなると、大きな切除が必要となります。
その際、切除部位を再建(腹の筋肉や皮膚などを用いて)することになりますが、ある程度の機能損傷は必発です。 小さな切除であれば、再建は必要なく機能損傷も軽微です。

参考文献(当科での発表論文:口腔癌関連)

総説

  • 1. 久 育男,河田 了.基本手術手技シリーズ 口腔・咽頭手術舌・口腔底癌への適応と限界.JOHNS.1997;13(3):523-525.
  • 2. 河田 了.【頭頸部外科手術トラブルの予防とその対応】口腔・咽頭手術副咽頭間隙手術におけるトラブルの予防と対応.JOHNS.2003;19(3):399-402.
  • 3. 河田 了.【耳鼻咽喉科領域におけるクリニカルパスとインフォームドコンセント】口腔咽喉頭領域におけるクリニカルパス.MB ENT.2004;37:26-32. 4.
  • 4. 河田 了.【頭頸部癌の治療指針私たちはこうしている】舌癌T2N0M0症例の治療指針予防郭清の是非と機能障害への配慮上頸部郭清(SOHND)の適応.耳喉頭頸.2004;76(7):425-430.
  • 5. 河田 了.【口腔癌にどう対応するか症例から学ぶ】上歯肉癌、硬口蓋癌T1・T2症例の治療.JOHNS.2007;23(4):589-592.
  • 6. 河田 了.【頭頸部の皮膚・粘膜病変】粘膜白板症と紅板症.JOHNS.2016;32(11):1627-1630.
  • 7.河田 了.【子どもから大人までの唾液腺疾患-鑑別の要点-】 口腔乾燥症.MBENT.2018;222:25-28. 河田 了. 【知っておきたい口腔の感覚異常】口腔の感覚異常の病態と治療 口腔乾燥症.JOHNS.2020;36(8):968-971.

原著(邦文)

  • 1. 木村隆保,安田範夫,河田 了,村上泰,福島龍之,久 育男.口腔・咽頭扁平上皮癌に対するNeoadjuvantchemotherapyの検討.口咽科.1994;6(2):137-142. 2. 河田了,村上泰.頸部郭清術:N0リンパ節の処理-顎下部・オトガイ下部領域について-.頭頸部外科.1996;6(3):155-160.
  • 3. 李 昊哲,河田 了,西川周治,林歩,竹中 洋,辻 求.舌根部小唾液腺由来低悪性腺癌症例正中下口唇下顎骨舌切断法によるアプローチ.耳喉頭頸.2003;75(11):823-827.
  • 4. 河田 了,辻雄一郎,李昊哲,今中政支,林 伊吹,竹中洋.口腔癌後発リンパ節転移に対する早期診断.耳鼻臨床.2003;96(4):351-355.
  • 5. 荒木南都子,河田 了,李昊哲,寺田哲也,竹中 洋.口腔癌73症例の臨床的検討頸部リンパ節転移の診断と治療を中心に.耳鼻臨床.2006;99(1):19-24.
  • 6. 西川美幸,寺井陽彦,吉川裕子,河田 了,植野高章.頭頸部癌手術患者の周術期における専門的口腔ケアの有用性の検証.大阪医大誌.2018;77:135-139.
  • 7. 菊岡祐介,乾 崇樹,鈴木 学,河田 了.口腔咽喉頭の粘膜病変を呈したStevens-Johnson症候群例.口科誌.2020;33(1):51-57.須波 綾,安里汐織,大西美帆,東野正明,河田 了.AYA世代口腔がん症例の検討.耳喉頭頸.2022;94(10):872-876.

原著(英文)

  • 1. Shimada T, Nakamura H, Yamashita K,Kawata R, Murakami Y, Fujimoto N, SatoH, Seiki M, Okada Y. Enhanced production and activation ofprogelatinase A mediated by membrane-type 1 matrixmetalloproteinase in human oral squamouscellcarcinomas:Implications for lymph node metastasis. Clinical &Experimental Metastasis. 2000; 18: 179–188.
  • 2. Kawata R, Shimada T, Maruyama S, HisaY, Takenaka H, Murakami Y. Enhanced production of matrixmetalloproteinase-2 in human head and neck carcinomas iscorrelated with lymph node metastasis. Acta Otolaryngol. 2002;122(1): 101-106.
  • 3. Lee K, Nishikawa S, Yoshimura K,Kawata R. Late nodal metastasis of T2oral cancer can be reduced by a combination of preoperativeultrasonographic examination and frozen section biopsy duringsupraomohyoid neck dissection. Acta Otolaryngol. 2011; 131(11):1214-1219.
  • 4. Nuri T, Ueda K, Iwanaga H, Otsuki Y, Nakajima Y, Ueno T,Kawata R. Microsurgical mandibularreconstruction using a resin surgical guide combined with a metalreconstructive plate. Microsurgery. 2019; 39(8): 696-703.