京都GIMカンファレンスについて
京都GIMカンファレンスは、1998(平成10)年4月に京都大学医学部総合診療部において、当時の福井次矢教授(現 東京医科大学茨城医療センター病院長)と、臨床教授に任命された松村理司市立舞鶴市民病院副院長(現 洛和会ヘルスケアシステム本部参与)によって開始され、ほどなく当時、国立京都病院(現 国立病院機構京都医療センター)総合内科を率いていた私も加わって以来今日まで続いている、診断推論を重視した症例検討会です。病歴と身体所見を重視した診断推論力の向上をめざしつつ、典型的な現れ方をした珍しい症例、あるいは非典型的な現れ方をしたコモンな症例の経験を共有し、参加者各自のその後の臨床に役立てることを大きな目標としています。
2006(平成18)年から会場を洛和会音羽病院に移しており、常連の病院に加えてこれまで一度でも症例提示を担当したことのある病院は40近くに上ります。症例選定は手挙げ方式で、毎回選ばれる3つ(2024年からは2つ)の病院に任され、症例提示者は各病院の若手総合診療医が中心です。参加者は主に近畿圏の大学の医学生や、臨床研修病院の総合診療系の若手医師が中心でしたが、後述のweb配信もするようになってからは全国からの視聴が増えています。
発足以来(COVID-19パンデミックによる緊急事態宣言発令中を除き)毎月欠かさず開催してきたため、2024(令和6)年6月7日で第300回を迎え、全国各地で類似のカンファレンスが行われるようになった昨今でも、他の追随を許さない取り扱い症例数を誇ります。
このカンファレンスの最大の特徴は、提示者しか最終診断名を知らない症例をとり上げ、まったくの予備知識なしのぶっつけ本番で、参加者各自が鑑別診断を考えながら、病歴・身体所見・初期検査の各提示段階で自由に質問をし、診断を絞っていくプロセスにあります。病歴と身体所見へのこだわりが強い参加者が比較的多いのも特徴と言えます。臨床に強いエリート放射線科医も常時参加してくれているため、画像診断にも一層の厚みを加えています。
各プレゼンの冒頭には、種明かしを聞いた後で聞けばその症例を思い出せるものの、一捻りしてあるために最初はすぐには診断がバレないような印象的なタイトルをつける慣習が出来上がっているので、遊び心の入ったタイトルでは、作者のユーモアのセンスとエスプリが毎回試されます。
個々の臨床医が各自で直接担当できる症例数は、一生かけても知れています。一方、忙しすぎる臨床の場で、十分吟味する余裕がなく流してしまっている症例に関しては、数をこなしても臨床経験として定着せず、教訓も残りません。そこへいくと、京都GIMカンファレンスのようなぶっつけ本番の症例検討会で、他人が経験した教訓を含んだ症例を、しかるべく実際の臨床現場を再現した緊張感をもって追体験することは、いわば自己の「経験症例」を効率良く増やしていることになり、記憶への定着も良いと考えられます。特に臨床症候へのこだわりが強い分、将来類似症候を呈した症例に遭遇したときに想起しやすく、効率の良い実地診療に役立つのではないかと期待しています。
このカンファレンスは参加自由ですので,興味がわいて診断推論に参加したい方,また道場破りにめずらしい症例を提示したい方はいつでも大歓迎です。コロナ禍をきっかけにリアルをメインとした部分的ハイブリッドで開催していましたが、 2024年7月以降はハブを洛和会丸太町病院に移し、完全リモート化に移行します。第301回以降の「新・京都GIMカンファレンス」にもご期待ください。(2024年3月)
洛和会京都医学教育センター長
酒見 英太